硫黄架橋ゴムに配合される酸化亜鉛(ZnO)は加硫促進剤、ステアリン酸等と反応することで亜鉛錯体を形成し、硫黄架橋反応の促進に重要な役割を果たすことが知られています。硫黄架橋系ではZnOと硫黄及び加硫促進剤との反応による反応中間体を生成し、硫化亜鉛(ZnS)を伴いながらゴム主鎖と硫黄架橋構造を形成していくと考えられています。
X線吸収微細構造(X-ray Absorption Fine Structure, XAFS)法は、元素のX線吸収スペクトルに基づいてその価数や配位構造に関する情報が得られる手法であり、亜鉛のK吸収端近傍のエネルギーで測定することでゴム中の亜鉛化合物の化学状態を評価することができます。
加硫時間を変えてプレス成形した硫黄架橋スチレン−ブタジエンゴム(SBR)の亜鉛K吸収端XAFSスペクトルを図1に示します(配合組成 SBR: 100 phr, ZnO: 3 phr, ステアリン酸: 1 phr, 加硫剤: 4 phr)。X線吸収端近傍構造(X-ray Absorption Near Edge Structure, XANES)と呼ばれる化学状態に敏感である吸収端近傍の領域に着目すると、未加硫時はZnOに帰属される9669 eVに吸収極大を持ちます。加硫時間の経過とともに9669 eVの吸収が減少し、ZnSに帰属される9663-9664 eVの吸収が増大しました。
図2にZnO,ZnS及びステアリン酸亜鉛(ZnSt2)の三種の標準試料のXAFSスペクトルを,図3にこれらの標準試料を用いたフィッティングによって得られた硫黄架橋ゴムの亜鉛化合物の成分比変化を示します。加硫時間の経過に従ってZnOが減少し、ZnSが生成しました。このように、硫黄架橋ゴム中の亜鉛化合物の化学状態を評価可能です。