樹脂製品に割れが生じた原因の調査事例を示します。
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・化粧道具であるアイシャウチップを使用していたところ、持ち手部分の黒色樹脂に割れが生じました。 |
フーリエ変換赤外分光分析(FT-IR)により得た黒色樹脂のIRスペクトル及び熱分解ガスクロマトグラフ/質量分析(Py-GC/MS)により得たTICクロマトグラムを図1に示します。
FT-IR及びPy-GC/MS分析結果より、黒色樹脂のポリマーはABS樹脂ではなくASA樹脂(アクリロニトリル・スチレン・アクリル酸エステル共重合体)であることが判明しました。ASA樹脂は別名:耐候ABS樹脂として知られるポリマーです。製品の材料を正しく把握することは、原因調査において非常に重要です。
黒色樹脂の破面のマイクロスコープ像及び走査電子顕微鏡(SEM)像を図2、3に示します。
黒色樹脂の破面をマイクロスコープで観察すると、金属光沢を有する物質が多く付着しており、アイシャドウのラメ由来と考えられます。
黒色樹脂の破面をSEMで拡大観察すると、外面から内面に向かって破壊が進行している様子が認められました。また、中央付近の破面形状は鏡面であることから、ソルベントクラック(溶剤クラック、ケミカルクラック)である可能性が考えられました。
黒色樹脂の破面付着物のGC/MS分析結果を図4に示します。
黒色樹脂の破面付着物のGC/MS測定結果より、複数種類のエステル系化合物が検出されました。エステル系化合物はソルベントクラックを引き起こす物質として知られています。
以上の結果より、アイシャウチップの持ち手部分の黒色樹脂は、化粧品に含まれるエステル系化合物が付着したことに加えて、チップ使用時に手で掴む際、外面側に力が加わったことで、ソルベントクラックが生じたと判断されました。