化学物質管理のカギ・その1 化学物質の「リスク」はどのように評価するのか? 化学物質の「リスク」はどのように評価するのか?

化学物質が原因で人への健康被害や環境への悪影響が生じることがあります。
自分たちが使っている、あるいは、自分たちが提供している化学物質は大丈夫(安全)なのでしょうか。
どのようなときに化学物質による人への健康被害や環境への悪影響(安全ではなくなること)が起こるのでしょうか。
それを知るための手段として「リスク」という概念が使われます。
そして、「どのようなとき」の答えがわかれば安全に使うための対策を立てることができます
本ページでは、化学物質管理において重要な役割を担う「リスク評価」について解説します。
化学物質の「リスク」を考えるとはどういうことなのか、どのような方法で「リスク」を求めるのか、「リスク」を求めることで何ができるのか、リスク評価がどのように化学物質管理につながるのか、学びましょう。

CONTENTS

役に立つ化学物質は毒にもなる?

「すべての物質は毒であり、毒でないものは存在しない。その摂取量こそが毒と薬を分けている。」
という毒性学の父とも呼ばれているパラケルススの有名な言葉があります。
例えば脂溶性ビタミンの一つであるビタミンAという化学物質は、人が食品から適量を摂取することで視覚・聴覚等の機能維持や皮膚や粘膜を健全な状態に保つ役割(効能)があります。しかし、過剰に摂取すると、関節痛や皮膚乾燥などの慢性症状、催奇形性、骨粗しょう症がみられることが知られています。
このように、化学物質はその摂取量(ばく露量)によって効能を発揮することもありますし、悪影響を引き起こすこともあります。
つまり、悪影響を引き起こす物質について、その悪影響が「どのようなときに現れるのか」は、「摂取量(ばく露量)」で決まります

なぜリスクを評価することが必要なのか?

化学物質による健康被害や環境への悪影響を起こさないためには、その化学物質を
どのように使うとどのくらい摂取(ばく露)するのか
どのくらい摂取(ばく露)したときにどのような悪影響が出るのか
を知り、被害や悪影響が出ないような対策を立てて、対策に沿った使い方をすることが大切です
そのためには、どの化学物質について評価するのかを特定したうえで、人や環境中の生物に「どのような影響が出るのか」という化学物質の「有害性」と人や環境中の生物がどのくらい化学物質に「ばく露」するのかを知り、「リスク」を評価する必要があります。
例えば、「作業者が工場でA液とB液を混合する」、「子どもが洗剤を使ってハンカチを洗う」のように化学物質を使う場面のことをシナリオといいます。「どのように使うと」を特定するのがシナリオです。
人への健康影響を考える場合、評価するシナリオが決まると、人がどのようにその物質を体内に取り込むのか?(吸い込む?触る?飲み込む?等)の「ばく露経路」が特定できます。
そして、評価するシナリオにおいて、化学物質による健康被害や環境への悪影響が起こり得るのかを考えるときに、「リスク」という概念を用います。健康被害や環境への悪影響が生じる可能性がある場合に「リスクが高い」、生じる可能性がない場合に「リスクが低い」と判断します。化学物質にどのくらい健康被害や悪影響が生じる可能性「リスク」があるのかは、
「有害性を生じる化学物質の量や濃度」と「ばく露する量や濃度」のバランスを確認することによって知ることができます。
このリスクの有無や大きさを知るための確認プロセスを「化学物質のリスク評価」と言います。

ただし、ここに紹介した方法はあくまで化学物質のリスク評価の基本的な考え方であり、これが全てではありません。例えば、「有害性を生じる化学物質の量」を決めることができない場合には、別の考え方で評価が行われることがあります。
適切な評価の方法等は専門家等の助言を求めることも大切です。

リスクを評価するってどういうこと?

リスク評価の例

化学物質によるリスクを評価するとは具体的に何をするのでしょうか。
例として、物質Xを含む水がA川に排出された場合にA川に棲む魚(メダカ)が死んでしまわないか(環境への悪影響が起こるか)どうかについて考えてみましょう。
魚の一種であるメダカは、物質Xが100 mg/Lという濃度ではその物質が原因で全例が死んでしまうが10 mg/Lという濃度では1例も死なないという試験結果があるとします。これは「有害性」に関する情報です。
一方で、A川の排出地点付近で物質Xが0.02 mg/Lの濃度で検出された、という測定結果があるとします。これは「ばく露」に関する情報です。
このとき、メダカは10 mg/Lの濃度であれば1例も死なないことがわかっており、それよりも薄い濃度である0.02 mg/Lで物質Xが存在するA川でなら生存できると考えられることから、この状況はリスクが低いと判断されます。
この一連の流れが「リスク評価」です。

リスクを評価する目的は?

「リスクが高い」と判断されたらどうするのか??
「リスクが低い」と判断されるための対策を考えます。
有害性は、化学物質に固有な性質なので、私たちはコントロールすることができません。
一方、ばく露量は取扱い方法等によって異なるものであり、例えば作業工程の見直しなどによって使う人がコントロールすることが可能です。
このように、「リスクが低い」状態にする方法を考える場合、一般的にばく露をコントロールする方法がとられます。
こうした、リスクを低減する対策を取ることを「リスク管理」と言います
ばく露量を管理することにより、化学物質のリスク管理が可能となりますので、リスクを適正に管理することは、ばく露量を適正に管理することと言えます。
なお、有害性の性質自体をコントロールすることはできませんが、より有害性の低い物質に替えることはリスク管理の一つです。
リスクを評価することは、最終的に化学物質のリスクを管理するために必要なプロセスなのです

リスク評価と法規制

化学物質管理は法規制と自主管理の両輪で行われており、法規制による管理を行うためにリスク評価が要求されている法律、あるいは、法規制の枠組みにおいて実施されているリスク評価があります。
例えば、日本では、労働安全衛生法でラベル表示義務及びSDS交付義務のある物質について、事業者が事業場におけるリスクアセスメントを行うことが義務付けられています。労働安全衛生法におけるリスクアセスメントは、化学物質などによる危険性・有害性を特定し、その特定された危険性・有害性に基づくリスクを見積もる(リスク評価に相当)ことに加え、リスクの見積もり結果に基づいてリスク低減措置(リスクを減らす対策)の内容を検討する一連の流れのことで、ここまで説明してきた「リスク評価」「リスク管理」が含まれます。
(詳しくはこちら⇒ 職場のあんぜんサイト(厚生労働省ホームページ)
その他にも、労働安全衛生法では、国が行った化学物質のリスク評価の結果をもとに化学物質による労働者の健康障害防止措置の導入が検討される仕組みがあります
(詳しくはこちら⇒ 職場における化学物質のリスク評価(厚生労働省ホームページ))
また、化学物質審査規制法(化審法)では、全ての一般化学物質を対象に、国が優先的に評価すべき化学物質を絞り込み、詳細なリスク評価を行っています。このリスク評価の結果、リスクが懸念される物質を特定して国が規制をかけることで管理が行われています。
(詳しくはこちら⇒ 化審法におけるスクリーニング評価・リスク評価(経済産業省ホームページ))
このように、リスク評価が法規制の要求事項として国や事業者によって行われる場合、評価の結果に基づき、国が必要な規制を行い、事業者は必要な対策を立てて実施することで化学物質の管理が行われています。

まとめ

私たちが化学物質をこれからも便利に活用していくためには、その化学物質が健康被害や悪影響を引き起こすのかどうかを見極め(リスクの評価)、取扱いのルールを決めるなどの対策を立て、適切な取扱いができるように管理しながら使うことが重要です。

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