X線光電子分光法(XPS)は、材料表面近傍の元素組成及び元素の化学結合状態を解析できる手法です。表面から深さ数nmまでの領域の情報を取得でき、また、イオンエッチングを組み合わせることにより表面から深さ数百nmまでのデプスプロファイルを取得できるため、ポリマーの劣化構造解析、表面処理後の官能基の評価、表面の元素組成分析、コーティング厚さの測定等の幅広い用途に使用されます。
NBRは代表的なジエン系ゴムの一つであり、繰返し単位当たり一つの二重結合を有することから、オゾンクラックを発生しやすいゴムとして知られています。オゾンによる構造変化はゴムの表面近傍の極浅い領域で進行するため、表面から深さ数nmの領域を分析可能なXPSはオゾン劣化により生じた化学構造変化を高感度に検出できます。カーボンブラック無配合の加硫NBRに対してオゾン劣化処理を施し、劣化処理前後における元素組成をXPSにより測定した結果を図1に示します。

図1から、オゾン劣化処理前のゴム表面において、主にNBR由来の炭素(C)、窒素(N)に加え、加硫剤及び加硫促進剤由来の硫黄(S)、加硫促進助剤由来の酸素(O)が検出されました。オゾン劣化処理後では、処理時間の経過に伴いO 1sピーク強度が強くなっていることから、オゾンによる酸化の進行が示唆されます。
オゾンによる酸化劣化の進行を確認するため、炭素の化学結合状態をC 1sナロー測定により分析した結果を図2に示します。

オゾン劣化前後のC 1sナロースペクトルを比較すると、オゾン劣化後ではC-O結合及びC=O結合に起因するピークが大きくなっていることから、オゾンによりNBRの酸化劣化が進行していることが確認されました。XPS法は、同じく表面分析に使用されるFT-IR法では検出できないような微量の構造変化を検出できるため、劣化度が低い試料の解析にも有効です。なお、本結果は以下に示す学会において発表した内容になります。
XPS法は表面近傍における元素組成分析及び化学構造解析において重要な手法の一つですが、実際の製品では、外観変化、諸物性の変化、老化防止剤及び軟化剤等の有機系添加剤の減少、外部由来物質の侵入、架橋密度の増減など、XPS法では評価できない変化も生じます。そのような重要な変化を見落とすことなく製品の劣化挙動を正確に把握するためには、多種多様な評価法を組み合わせ、総合的に劣化状態を診断することが重要です。
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