カーボンナノチューブ(CNT)は、sp2炭素によって作られる六員環ネットワーク(グラフェンシート)が筒状に丸められた構造を持つ繊維状物質です。層の数や幾何学構造(カイラリティ)により性質が変化しますが、一般的に非常に高い機械物性、導電性、熱伝導性などを示します。このようなCNTの優れた特性を利用した様々な応用研究が世界中で行われています。
CERIでは以下のようにCNTやCNT複合材料に関する幅広い評価を受託しています。個別の分析評価だけでなく、学術論文、特許のトレース実験や新規開発のサポートも実施しています。
項 目 | 受託内容 |
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純度測定 | ラマン分光, TG-DTA, 元素分析 |
カイラリティ分布 | PLマッピング |
官能基の分析, 置換度の測定 | FT-IR, XPS, 滴定 |
形態観察 | レーザー顕微鏡、SEM, FE-SEM, AFM, TEM |
分散評価 | イメージングIR (ラマン), SEM, X線CT, AFM, TEM |
機械物性 | 曲げ, 引張, 圧縮, 疲労, クリープ, 動的粘弾性 |
熱伝導率 | 熱流計法非定常法, レーザーフラッシュ法, 周期加熱法 |
熱膨張率 | TMA |
耐熱性 | TG-DTA |
耐候性 | 太陽光:サンシャインウェザーメータ, 紫外線オートフェードメータ,キセノンウェザーメータ (+過酸化水素噴霧ユニット),全昼光型メタハライドランプウェザーメータ オゾン :オゾンウェザーメータ 腐食 :塩水噴霧試験, 複合サイクル試験 |
電気特性 | 表面抵抗, 体積抵抗, 誘電率, 破壊電圧 |
表面改質 | オゾン水酸化, エステル化, エーテル化, Diels-Alder反応等 |
複合材料作製 | 二軸押出機・ロール・密閉型混練機による複合化検討 液中混合による複合化検討 In situ重合による複合化検討 射出成形による試験片作製 |
分散液調製 | 各種ホモジナイザーを用いて水や有機溶媒など任意の分散媒へCNTを分散 |
化学気相成長法(CVD法)とスーパーグロース法で合成されたSWCNTの形態観察を電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)により行いました。CVD法で合成されたSWCNT(図1 (a))は、繊維数十〜数百本のバンドルが糸鞠状に絡まり合った様子が観察されましたが、スーパーグロース法で合成されたSWCNT(図2 (b))は繊維が絡まり合いながら同一方向に成長している様子が観察されました。FE-SEMはCNT/ポリマー複合材料の外観や破断面の観察にも用いられます。
図1 (a)CVD法及び(b)スーパーグロース法で合成されたSWCNTのFE-SEM像
図2 JSM-6701F (日本電子)
CNT試料に不純物であるアモルファスカーボンや触媒金属がどの程度含まれているかを調べるには、熱重量測定(TG)がよく利用されます。
酸素を含む雰囲気中でCNTを加熱していくと、昇温に伴い酸化しやすい成分から順に燃焼し重量減少が観測され、最後は触媒金属のみが残ります。この重量変化から試料中の不純物量を求めることができます。図3には製造方法が異なる単層カーボンナノチューブ(SWCNT)試料のTG曲線を示しており、製造方法の違いが触媒金属の残存量に大きく影響することが分かります。
図3 製造方法の異なる単層カーボンナノチューブ(SWCNT)試料のTG曲線
図4 STARe system TGA/DSC 1 (Mettler-Toledo)
CNTは繊維間の強い相互作用のために凝集性が高く、表面に親水性の官能基が少ないため、水中へ単独で分散させることは困難です。そのため、CNTを水中へ分散させる際は、CNT表面の親水化や、界面活性剤の添加が必要となります。CNT表面の親水化には硝酸などの強酸が用いられますが、酸による改質は、中和や洗浄が煩雑であり作業にも危険が伴います。
一方、オゾンは酸素を放電管に通過させるだけで簡便に合成可能であるため、消毒や漂白に広く産業利用されています。オゾンは水中において自己分解反応により酸化力の高いヒドロキシラジカル(・OH)を生じます。このヒドロキシラジカルはポリイミドやシリコーンゴム、フッ素ゴムといった化学的に不活性なポリマーであっても酸化を受ける非常に強力な酸化種です。オゾン水中でCNTの酸化を行うことで、酸処理と同様に親水性の官能基をCNT表面に導入可能です。また、オゾンは通常速やかに分解するため、中和や洗浄の必要がありません。CERIでは、自作オゾン水暴露槽を用いたCNTの改質を受託しています。図5のように、オゾン水酸化後のMWCNTは水中での分散性が大幅に向上しました。
図5 未処理CNT及びオゾン水酸化後CNTの水懸濁液
図6 オゾン水暴露槽
XPS (X-ray Photoelectron Spectroscopy)はサンプル表面にX線を照射し、生じる光電子のエネルギーを測定することで、サンプルの構成元素とその結合状態を分析することができる手法です。物質の表面(数ナノメートル)の元素分布が測定対象であることから、ポリマー材料最表面の化学変化(劣化や偏析、グラフト等)やフィラーの表面修飾状態の分析に用いられます。XPSによりオゾン水酸化MWCNT表面の官能基を分析したところ、オゾン水処理によって-OH由来のピーク強度が増加していることから、オゾン水酸化により、MWCNT表面に-OHが修飾されたと分かりました。
図7 (a)未処理及び(b)オゾン水酸化後MWCNTのO1s XPSスペクトル
図8 AXIS Nova (Kratos Analytical)
スチレン系熱可塑性エラストマーの一種であるスチレン・エチレンブチレン・スチレンブロックコポリマー(SEBS)へMWCNTを添加したSEBS/MWCNTコンパウンドの動的粘弾性(温度分散測定及びひずみ分散測定)を実施しました。温度分散測定からは、MWCNTの添加によりPSドメインの流動が抑制され、コンパウンドの高温における軟化が抑制されていることが分かります。また、ひずみ分散測定からは、オゾン水酸化を行うことでSEBS/MWCNTコンパウンドのひずみ依存性が小さくなっていることから、MWCNTの分散状態が変化していると推察されます。
図9 MWCNT/SEBSコンパウンドの温度分散測定結果
図10 MWCNT/SEBSコンパウンドのひずみ分散測定結果
図11 RSA-3 (TA instruments)