研究開発・支援等

  1. Home
  2. 研究開発・支援等
  3. 研究開発
  4. 発がん性予測手法開発への取組

研究開発

  1. 研究業績
  2. 発がん性予測手法開発への取組
  3. Tox-Omicsにおける取組

発がん性予測手法開発への取組

2)予測法開発

 トキシコゲノミクス手法を用いた短期化学発がん性予測法を開発するためには、化学発がんに関連した遺伝子の発現パターンと発がん性との関連付けが必要です。本開発では、化学発がんに関連した遺伝子の解明が十分ではない現状を踏まえて、発がん性既知物質を実験動物(ラット)に投与し、発がん標的臓器の遺伝子発現量を網羅的に測定し、得られたデータから発がんと関連した遺伝子を特定した後、化学発がんに関連した遺伝子の発現パターンと発がん性との関連付けを行いました。その中で、我々はこれらを実施するために適したマイクロアレイ、動物実験プロトコール、データ解析手法(バイオインフォマティクス手法)等についても開発いたしました。

■マイクロアレイ

 発がんと関連した遺伝子の特定を的確かつ効率的に行うためには、発がん性物質で変動する遺伝子が網羅的に搭載されたマイクロアレイが必要です。
そこで、本開発では、発がん物質を投与したラット臓器中の遺伝子発現情報等を独自に取得することにより発がん物質投与で発現変動する遺伝子を絞り、オリゴマイクロアレイ"ToxArrayIII"(6709遺伝子)を開発し、これを用いて遺伝子発現データの収集を行いました。

  • カバーグラスに覆われたToxArrayV

  • 搭載した遺伝子の内、GeneOntolgy情報の有る3,058遺伝子の内訳
ページの先頭へ戻る
■試験物質

 化学発がんのメカニズムにはさまざまなモデルが提唱されています。その発がんに至るメカニズムが異なれば、化学発がんと関連した特徴的な遺伝子発現パターンも異なることが予想されるので、広範囲の化学物質に適用可能な発がん性予測法を開発するためには、さまざまなメカニズムの遺伝子発現パターンが必要となります。
そこで、本開発では、変異原性と組み合わせた下図の4カテゴリの中から発がん性メカニズム、臓器の標的性(主な標的:肝臓)、構造異性体等を考慮して選定した72物質(表1)を動物試験の試験物質としました。

ページの先頭へ戻る
表1 試験物質の一覧表
物質名 CAS No. 発がん性 ラット肝
発がん性
変異原性
Clofibrate 637-07-0 + + -
Di(2-ethylhexyl)phthalate 117-81-7 + + -
2,4-Diaminotoluene 95-80-7 + + +
2,6-Diaminotoluene 823-40-5 - - +
Quinoline 91-22-5 + + +
8-Hydroxyquinoline 148-24-3 - - +
Phenobarbital 50-06-6 +   -
D-Mannitol 69-65-8 - - -
L-Ascorbic acid 50-81-7 - - -
DEN (Diethylnitrosamine) 55-18-5 + + +
2-Nitropropane 79-46-9 + + +
N-Nitrosomorpholine 59-89-2 + + +
Aldrin 309-00-2 + - -
Di(2-ethylhexyl)adipate (DEHA) 103-23-1 + - -
Ethinylestradiol 57-63-6 + + -
Hexachlorobenzene(HCB) 118-74-1 + + -
α-Hexachlorocyclohexane(HCH) 319-84-6 + + -
Trichloroethylene 79-01-6 + - -
Butylated hydroxyanisole (BHA) 25013-16-5 + - -
d-Limonene 5989-27-5 + - -
Safrole 94-59-7 + + +
1,4-Dichlorobenzene (DCB) 106-46-7 + -  
1,4-Dioxane 123-91-1 + LP -
Furan 110-00-9 + + +
Methyl carbamate 598-55-0 + + -
Thioacetamide 62-55-5 + + -
2-Chloroetahnol 107-07-3 - - +
2-Chloromethylpyridine HCl 6959-47-3 - - +
DL-Menthol 89-78-1 - - -
4-Nitro-o-phenylenediamine 99-56-9 - - +
Benzoin 119-53-9 - -  
Iodoform 75-47-8 - -  
Lithocholic acid 434-13-9 - - -
N-Nitrosodimethylamine (DMN) 62-75-9 + + +
N-Nitrosopiperidine 100-75-4 + + +
2-Acetylaminofluorene (2-AAF) 53-96-3 + + +
MeIQx 77500-04-0 + + +
PhIP 105650-23-5 + - +
Benz[a]anthracene (BA) 56-55-3. +   +
7,12-Dimethylbenz [a]anthracene
(DMBA)
57-97-6 + - +
3-Methylcholanthrene (MC) 56-49-5 + - +
4-Nitroquinoline-1-oxide 56-57-5 + - +
N-Ethyl-N-nitrosourea (ENU) 759-73-9 + - +
Trichloroacetic acid 76-03-9 +   -
Methapyrilene HCl 91-80-5 +   +
Urethane 51-79-6 + + -
Pentachloroethane 76-01-7 + - -
Chloroform 67-66-3 + + -
Lindane 58-89-9 - - -
2-Chloro-p-phenylenediamine SO4 61702-44-1 - - +
p-Phenylenediamine 2HCl 624-18-0 - - +
2,5-Toluenediamine SO4 6369-59-1 - - +
α-Tocopherol (Vitamin E)   -   -
Benzo[a]pyrene (BP) 50-32-8 + - +
Tetrachloroethylene 127-18-4 + - -
Acetamide 60-35-5 + + -
Diethylstilbestrol (DES) 56-53-1 + E -
Phenytoin (5,5-Diphenylhydantoin) 630-93-0 + E -
D,L-Ethionine   + + -
Aspirin 50-78-2 - - -
4-(Chloroacetyl)acetanilide 140-49-8 - - +
Phthalamide 88-96-0 - - -
Caprolactam 105-60-2 - - -
3'-Methyl-4-dimethylaminoazobenzene (3'-Me-DAB) 55-80-1 +   +
4-Dimethylaminoazobenzene (DAB) 60-11-7 +   +
Chlorendic acid 115-28-6 + + -
1-Chloro-2-propanol (technical) 127-00-4 - - +
3-Chloro-p-toluidine 95-74-9 - - +
4-Nitroanthranilic acid 619-17-0 - - +
1-Nitronaphthalene 86-57-7 - - +
Sodium benzoate 532-32-1 - - -
Indomethacin 53-86-1 - - -

発がん性・・・発がん性試験に用いられるマウス、ラットのいずれかの臓器における発がん性を示す。陽性の場合「+」、陰性の場合「-」。
ラット肝発がん性・・・ラットの肝臓における発がん性を示す。陽性の場合「+」、陰性の場合「-」。
変異原性・・・Ames試験の結果を示す。陽性の場合「+」、陰性の場合「-」。
LP・・・Limited Positiveの略、雌雄一方でのみ発がんした場合、もしくは投与経路が大きく異なる場合が該当。
E・・・NTP等でEquivocalと判定。
?・・・調査の結果、明確な情報が得られず。

ページの先頭へ戻る
■動物試験

 トキシコゲノミクス手法を用いて発がん性を予測するために必要な投与期間は、発がん物質に特徴的な遺伝子発現パターンが出現する投与期間により決まりますが、現状ではそれを判断できるデータはほとんどありません。そこで本開発では、一般工業化学薬品の毒性評価法として用いられている化審法の28日間反復投与試験をベースとして本開発に適した試験プロトコールを開発し、1日から28日までの間で発がん性予測法に適した投与期間の検討を行いました。また、遺伝子発現量を測定する臓器は肝臓としました。これは肝臓が発がん物質の最大の標的臓器であること、投与した発がん物質は肝臓を循環すること、そして肝臓での代謝を受けて発がん物質となる場合が多いなどを考慮して選定いたしました。また、本試験プロトコールは、化審法等の試験の一環として実施することが可能という実用的な利点があります。

■データベース

 試験物質の性状・毒性等の情報、試験条件、試験データ、遺伝子発現量データ等の全ての関連情報及びデータは、データベース化し一元管理を行いました。このデータベースには、NCBIなどの外部データベースから遺伝子機能、ネットワーク等の情報を収集し、遺伝子発現データ等との関連性を解析する機能やバイオインフォマティクス手法とリンクさせてデータ解析が容易にできるに機能等を付与しております。

ページの先頭へ戻る
■予測モデルと予測式作成

 上記の発がん性既知物質を投与した肝臓の遺伝子発現データからバイオインフォマティクス手法を用いて解析し、発がん物質の投与に特徴的な発現パターンを示す遺伝子を特定し、それらの遺伝子の発現量と発がん性の有無を関係づける発がん性予測式を開発しました。予測式は、試験した発がん物質には既知見では不明なものを含めた多数のメカニズムが混在している可能性があり、発がんメカニズムが変異原性の有無により異なることも考慮した3つの予測モデル*4各々について作成しました。
発がん物質の投与に特徴的な発現パターンを示す遺伝子の特定は、発がん物質群と非発がん物質群間で有意な発現変動の差を示す遺伝子を統計量の一つであるウェルチのt値を基準に選定し、更にその中から発がん物質投与での発現変動値が確実な遺伝子セットに絞りました。最終的に絞り込んだ遺伝子セットの発現データの変動パターンを基に、サポートベクターマシン法を用いて発がん性予測式を作成しました。予測式作成に利用した物質の予測率は、肝発がん物質100%、肝以外を標的とする発がん物質94%、非発がん物質89%という結果でした。

*4 各モデルでは予測精度向上のため、発がん物質の投与によって現れる特徴的な発現パターンの違いや、Ames試験の判定結果などを基に発がん物質を分類しました。

ページの先頭へ戻る
■発がん性予測システムの構築

 開発した3モデルの予測式は、モデル構築の前提が異なるために予測式が得意とする発がん物質の範囲は異なることが考えられます。そこで、これらの3モデルの予測結果を総合的に判定し、化学物質の発がん性を予測する発がん性予測システムを構築しました。
発がん性が未知の化合物の発がん性予測を予測する場合は、28日間反復投与試験を行ったラットの肝臓の遺伝子発現データを、この発がん性予測システムにインプットすることで、3つの予測モデルの各々の予測結果と総合評価結果の他に、データベースに格納されている既試験物質との発現パターンの類似性や、予測結果の信頼性等のデータ出力され、専門家による予測結果の考察をサポートできる機能を有しています。